カワイイ俺のカワイイ本当

10/32

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
場所は店と喫茶店の中間あたりだったと思う。 入り組んだ裏路地の奥まった角を曲がった時、人の話し声が聞こえた。 高い。女性の声だ。 認識した瞬間、心臓が可能性に跳ね上がった。 緊張に空気が伸し掛かる。 荒い呼吸を意識的に抑えつけながら、足音を潜めて奥を覗き込んだ。 「っ!」 灰色にくすんだブロック塀が先を阻む路地の奥で、向かい合う二つの影。 腕を組んで凄む赤を纏う女性と、困り顔で見下ろす男性服の長身。 (みつけた!) 安堵に気が緩んだのは一瞬。 耳に届いたレナさんの剣呑な声に、直ぐに張り詰めた。 「そう……どうしても約束は出来ないというのね」 カイさんが戸惑いがちに口を開く。 「……はい。こちら側に、規則違反ではない方を制限する決まりはありません」 「わからない人ね。これは『店』に頼んでいるんじゃないの。アナタ個人に言っているのよ」 「……ならば余計に、首を縦に振るわけにはいきません」 (約束? 頼み? なんのことだ?) レナさんは頑なに拒むカイさんを睨み続けていたが、「……そう」と赤い唇で呟くと、小馬鹿にするようにクスクスと笑む。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加