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と、カイさんがゆっくりと、視線を上げた。
「……お言葉ですが」
その瞳は曇りなく、真っ直ぐにレナさんを射止める。
「『迷惑極まりない』のはユウちゃんではなく、貴女では?」
「っ! 調子に乗って……っ!」
レナさんがヒールを荒々しく鳴らしてカイさんへと詰め寄ったのと、俺が驚愕に目を見開いたのは同時で、伸ばされた赤いネイルの指先がカイさんの首元へと伸びていく様が、まるでスローモーションのように鼓膜へと流れこんできた。
引きちぎられた銀色の鎖が宙に舞い、濃い黒に覆われたアスファルトへと落ちていく。
「!!」
気づいたカイさんが体制を崩し、手を伸ばす。
レナさんは暗い瞳のままその後頭部を見つめると、意図を持ってゆっくりと右足を上げた。
街灯に照らされた紅色のヒールが鈍く光る。
気づいた時には、地面に膝をついたカイさんを守るように、ヒール靴との間に割入っていた。
「! ユウちゃん!?」
驚愕にレナさんが瞠目する。
背後でカイさんが、息を詰めた気配がした。
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