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ごめんね、カイさん。
最後の最後まで振り回してしまった謝罪を胸中に、俺はもう一度、今度は彼女にも意図が伝わるように、ゆっくりと紡いだ。
「『俺』の、本名。瀬戸悠真っていいます」
「!」
「『ユウ』っていうのは、店で使ってる名前で。……オトコの娘カフェで、働いているんです。さっきの彼女は、懇意にしてくださっていたお客さんで。……巻き込んでしまって、スミマセンでした」
「っ、それは、それよりも……っ、どうして……?」
絞りだされた困惑の声が、心臓にチクリと針を刺す。
夕陽の紅を反射して揺れ動く瞳が、場違いにも、綺麗だと思ってしまった。
「好きです」
「っ」
「『俺』は、『あなた』のことが、好きです」
「!!」
一文字一文字、はっきりと告げた俺に、彼女は硬直したまま更に目を見開く。
初めて見る顔だ。この人は本当に驚いた時は、こんな顔をするのか。
覚えていたい、と脳裏の片隅で思いながら、俺は握る指先に力を込め、『本当』の事を口にする。
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