カワイイ俺のカワイイ本当

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もう片方の掌で、彼女の指先をそっと包む。 「ゆう、ちゃ」 「『男性のお客様は、決してギャルソンに触れないこと』」 「!」 「『俺』は、ルールを破りました。……もう、あなたの『客』にもなれません」 肩を竦めて柔く笑むと、彼女はくしゃりと顔を歪めた。 視線が下がる。手の内にある指先は小刻みに震えていて、その手を引いて抱きしめたい衝動を、グッと堪える。 彼女の涙する理由が『失望』なら、これ以上、拒絶されたくはない。 (ホント、身勝手だな、俺) 結局、一番に彼女を傷つけたのは、他の誰でもなく俺自身だ。 振りほどかれないのをいい事に、俺はただ、指先の温もりだけを頼りに彼女の言葉を待つ。 嘘で塗り固められていた『俺』の、この気持ちだけは、紛れも無い『本当』として伝わることを願って。 「……初めの時は」 か細く落とされた声に耳を傾けながら、俺は拒絶の言葉に耐えうるようにと、心中を律した。
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