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なにが、ごゆっくりだ。
この状況で、どうゆっくりしろって言うんだ。
「ともかく……戻りましょうか」
「そうだね」
互いに苦笑を向け合って、俺たちは肩を並べて歩き出す。
真っ赤な空は西側から薄い紫が伸びてきていて、夜気を含んだ風が小さく髪とスカートを揺らした。
ふと、頬にかかった髪がはらわれた感触。
あくまでさり気ない、けれども今までは無かった接触に驚いて見上げると、視線のかち合った彼女はつい、といった様子で「あ、ごめんね」と肩を竦めた。
「髪、伸びたね。最初に会った時は、肩くらいだったよね」
懐かしそうに目を細める彼女の余裕に、ふつりと小さな反発心が芽生える。
「……そろそろ、切らないとですかね」
引かれた指先を追って柔く握りこむと、彼女の歩が乱れた。
驚いたように瞠目した彼女はキョロキョロと視線を彷徨わせ、照れに染まる頬を隠すように、前を向いたまま俺の指先を握りこむ。
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