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店の前まで辿り着いたと同時に、俺達はどちらからともなく視線を合わせて、そっと指を解いた。
まだ誰かの前で堂々と繋いでられる程、甘さに溺れた訳ではない。
けれども失ったもう一つの体温に心寂しさを感じて、熱が少しでも長く残るようにと、俺はこっそりと掌を握り込めた。
先導するカイさんに続いて、開かれた扉の先に踏み入れる。
途端に響いたのんびりとした声が、微かな緊張を和らげた。
「あー、もう戻って来ちゃったんですねー」
「……やっぱりお前達か」
カウンターに両肘をついて寛いでいるのは、思った通り、私服の時成だ。
その隣に立っていた俊哉が、泣きそうな顔で笑みをつくる。
「おかえり。良かったね、悠真」
「……ああ」
心底安心したという響き。照れに視線を逸らす俺にも、俊哉は嬉しげに微笑みを深める。
ちょん、と。袖を引っ張られた感覚に斜め後ろを見上げると、戸惑い顔のカイさん。
拓さんが頻繁に出入りしていたからすっかり忘れていたが、そういえば、カイさんは二人と初対面だった。
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