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問いかけようとした矢先、俺と拓さんの間が急に黒に阻まれる。
見上げると辿った先には渋い顔のカイさん。
「時間とっちゃってごめんね。行こう」
「え、あ、はい」
記憶しているカイさんの"キャラ"ならば、促す際は"行こうか"と伺うような言い方を選んでいた筈だ。
きっぱりと断言するなんて新しいな、と脳内に刻みつつ、開かれた扉へ小走りで駆け寄る。
「あーあ取られちゃった」
笑いを噛み殺す声に振り返れば、お腹を擦りながら中央まで進んだ拓さんがカツリと床を鳴らし、背筋を伸ばす。
「それでは、良い夢を」
うん、やっぱり格好良い。
片手を胸に添える姿がいつもよりも近く思えて、笑顔で頷いてみせた。
「今日はどうする?」
「足元気をつけてね」と前回同様に注意を促しつつ尋ねるカイさんは、まだ少々不満が残るらしい。
お得意の笑顔を作っているつもりだろうが、残念ながら目が笑っていない。
「またあのカフェに連れて行ってもらってもいいですか? 別のメニューも食べてみたくて」
「うん、いいよ。嬉しいな、ユウちゃんも気に入ってくれて」
(あ、駄目だ)
甘い言葉を吐いてみせるのに、未だ固さの残る目元を見つけて堪えきれずに頬が引きつる。
「……どうかした?」
俺の"技"も見破るカイさんが気づかない筈がない。
歩を止めずに覗きこむ眉間に、不可解そうな皺が寄る。
「カイさん、まだ怒ってる?」
当たり障りのない言葉で躱すことも可能だが、敢えて切り込む事にした。
先ほどの"奪い合い"で知った俺に執着する姿に、少々浮ついているのかもしれない。
「……どうして、そう思うの?」
「目、笑ってないです」
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