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「僕の目は誤魔化せないですよ」と繋げつつ、いたずらっぽく人差し指を口元に寄せてみせる。
これは"ユウ"ではなく、"俺"のお得意の笑みだ。
「……さすが、だね」
カイさんは一瞬、目を見開いて。
綺麗にセットした前髪をクシャリと掻き上げて、諦めたように苦笑を零す。
「拓さんがユウちゃんのこと気に入ってるのは分かってたんだけど、まさかあそこまで露骨に迫ってくるとは思わなくて」
"分かっていた"ということは、やっぱり拓さんとの間に俺の話題が上がっていたようだ。
何を話したのかは定かではないが、拓さんの様子からしたら今の所は俺に不利益な内容ではないだろう。
バツが悪そうに目を逸らして、落ち着かなそうに彷徨く手。
明らかな動揺に、俺の中の悪戯心が疼く。
このまま逃してあげるつもりだったが、ちょっとだけ惜しくなった。
「……それで、怒ってたんですか?」
あくまで自然を装った追求に、カイさんの肩がピクリと跳ねる。
言い難そうに「あー」と間延びした声を零す様も、スマートなカイさんらしくない。
らしくない、けど。
「カイさん?」
「……先に、謝っておくね」
「その……ユウちゃんも拓さんの事気になってたの知ってるし、拓さんにあんな事言われたら本当に取られちゃうような気がして……」
「、」
頬と耳を真っ赤にして口元を覆うカイさんに、心臓がキュッと締まる感覚。
(……可愛いじゃん)
自分でも予想外。そうありありと浮かべる恥じるような表情は、けして演技などではない。
反射で感じたのは何とも言えない愛らしさ。それと。
"俺を、取られたくなかった"
そう揶揄した言葉が胸中に染みこんでいく。
そして同時に湧き出る疑問。
そう、言ってくれたのは。
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