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「そんなに気になります?」
「うん。ユウちゃんの好きなモノ、オレも知りたい」
(すっかりいつもの調子だな)
返された甘い台詞につい肩を竦める。
馴染みのない新規の客の注文を覚えるのは難しい。
だからこそ確かに、この"特別感"を証明するには相応しい演出だ。
(さて、どうしたもんかな)
新たなスキルはきっちり心のノートに記して、次の選択肢を思案する。
照れるように頬を染めて視線を流してみようか、それとも拗ねるように唇を尖らせてみせようか。
(いや、どっとも却下だな)
今回はそういった"ワザと"は禁止だった。
ただ、笑顔を乗せたまま、肯定を示すよう頷いてみせる。
「好きですよ。たまには他のをとも思うんですが、ラインナップにいちごがあったらやっぱり選んじゃいますね」
因みにこの間ほんの数秒。
不自然さはなかったのだろう。カイさんは満足そうに瞳を細めて。
「甘いモノは好きだけど、飽きやすいタイプ?」
「いえ。しいて言うなら誰かと共有したいタイプですね。なのでカイさんにも一緒に食べてほしいんです」
「そっか。ユウちゃんは優しいね」
「……今の文脈に優しい所なんてありました?」
不可解な返答に、思わず眉を潜める。
そんな俺の皺を見つけて、カイさんはクスクスと零して。
「うん。オレに気を使わせないようにって返してくれるから」
「そんなつもりじゃ」
「でも、そう取れる言葉を選んでくれるのはユウちゃんの優しさだよ。ありがとうね」
「……」
周囲に花を撒き散らすような暖かい笑顔に、こっそりと視線を落とす。
(くっそ、勝てねー……)
こうした切り返しが自然と出来るのは、経験値の差なのだろうか。それとも情報量の違い?
いや、おそらく"彼女"は、他者の感情に非常に敏感なのだろう。
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