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「ユウちゃんも気をつけてね」
「何をですか?」
「可愛い子に"勘違い"はつきものだから」
「、」
揶揄しているのは先程のやり取りだろう。
本音は「カイさんにだからです」と返したい所だが、きっとそれではまたカイさんの疑念を深めてしまうだろう。
「相手は選んでますよ」
笑顔で同じ言葉を返し立ち上がった俺に、カイさんは鞄を手渡しながら少しだけ眉を寄せて。
「それなら良いけど……」
「不満ですか?」
「心配してるだけだよ」
珍しく主導権はこちら。
このチャンスを逃すほど、俺は馬鹿じゃない。
「心配、しててください」
「え?」
「そうすれば、俺がカイさんの心配をしててもいい理由になるでしょ?」
「、」
目を見開いて固まるカイさんにニコリと笑んで、伝票を掲げながら「先、外で待っててください」と背を向ける。
「あ、うん」と。虚をつかれたような声に奥歯で笑いを噛み殺して、背筋を伸ばしたままレジへ。
どうやらカイさんは、"言われる"方には慣れていないらしい。
少しだけ、「嬉しい」と感じてしまうのは何故だろうか。
「お待たせしました! どう? 美味しかった?」
レジで伝票を処理してくれるのは、勿論あの店員さん。
肯定した俺に「でしょでしょ~!? もうこの味にたどり着くまで何回試作を重ねたことか……」と大きく息をつく。
それから店外へと出て行くカイさんに片手を上げて、扉が閉まったのを確認すると口端に片手を添えて。
「カイね、本当はブラックよりミルクと砂糖たっぷり派。良かったら参考にして」
「へ?」
そっと耳打ちされたのは、貴重な本当の"彼女"の情報。
どうして。
顔を跳ね上げた俺に、その人はやはりカラリと笑って。
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