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「あっぶね」
はぁーと緊張を吐き出し、椅子の背もたれに全体重を預ける。
今までも時折直前のキャンセルがないかと張っていたが、お目にかかれたのは初めてだ。まさか本当に遭遇するとは。
ありがとう神様。
心の中で両手を合わせ、届いたメールを確認する。
開始時間はシフト終わりの三十分後。
着替えの時間を考慮すると、ロング終わりの身体を労るために一息つくのも難しそうだ。
(それくらいなら許容範囲だな)
有りがたく手に入ったチャンスだ。
文句を言ったらツキが逃げる。
確認した時刻は休憩の終了真近。
立ち上がり伸びをして、エプロンを身につけると空の皿を手にパントリーへと向かう。
「休憩ありがとうございました」
「あ、ユウちゃん先輩おかえりなさいですー」
注文のジュースをグラスに注いでいた時成が、お盆に乗せながら俺に声をかける。
昼入りだった時成の休憩はまだ暫く後だ。
休憩中の様子を尋ねたオレに「特にトラブルはないですよー」と返してから、思い出したように「あ、」と声を潜める。
「十二番に"クイーン"が来てるんで、よろしくですー」
「……レナさんな」
レナさんは数ヶ月前の初来店から、週に二度は来てくれている希少な女性のお客様である。
更には俺指名でチェキの注文をくれる大事な"お得意様"だ。
"クイーン"というのは、時成が勝手につけたレナさんの呼称。
常に赤の際立つ外見と少し強い物言いが童話に出てくる"ハートの女王"のようだと。
「注文は?」
「まだこれからですー。先輩いるか訊かれたんで、先輩待ちじゃないですかねー」
「わかった、行ってくる」
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