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「……なんだよ」
「いえー。ユウちゃん先輩、楽しそうだなーって思っただけですー。やっぱり何かに熱中してた方が、イキイキするんですねー」
「羨ましいですー」と続ける時成に、小さく眉根を寄せる。
確かに今、カイさん攻略に向けて奮闘してる日々は充実していると言っても過言ではない。
だが目的は後ろめたい理由であるし、仮にその点を除いたとしても、残るのは特定の"男装女子"に貢いでいるという何とも非生産的な事実だけだ。
羨ましい、と零した理由がそこでは無いという事は重々承知だが、万が一という可能性もある。
「……何かに熱中すんなら、胸張って言えるモンにしろよ」
ポン、と。肩に手を置いて重々しく告げた俺に、時成は「わかってますよー」と苦笑する。
「おれは先輩みたいに頭がキレるワケじゃないですしー。危ない橋は渡りませんー」
「ったく、良く言う」
「さ、お仕事お仕事ー! ユウちゃん先輩にはバリバリお客さんを誑かしてもらわないと困りますー」
「人聞きの悪いコトをいうな、"サービス"だ"サービス"っ」
背中を押されながらホールへと踏み出して、他のキャストの位置を見ながらお客様とのコミュニケーションを取りにいく。
("サービス"、ねぇ)
そう、全ては支払って頂いた"サービス料"の対価なのだ。
勘違いするなよ、と改めて自身に言い聞かせ、残りの勤務時間もそつ無くこなしていく。
チェキを入れてくれたレナさんの写真には、いつもの「ありがとうございました」の一言に水玉を添えてみた。
「もうっ」と怒られたが、その顔は嬉しそうにはにかんでいた。
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