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これ以外も今日は撮影を求めてくださるお客様が多く、その都度目についたモチーフを書き足す。
時成程酷くはないが、俺も才能があるとは言いがたい画力なので本当に簡単なモノだ。
それでもそれぞれの顔に溢れる歓喜を見つけてしまえば、"些細な気遣い"も馬鹿にできない。
(ま、これもカイさんのお陰だけどな)
俺には一人一人の鞄にハンカチをかける事も出来ないし、カラトリーを手渡す事も出来ない。
それでもせめて、ワザワザ俺を指名してくれるお客様に何か出来ないかと考えた結果が、この小さな"付け足し"である。
気がついた時成がニヤニヤとしてきたが、それは肩を小突いてやり過ごす。
面と向かって「変わりましたね」なんて言わせない。
キャストの休憩を順に回して、少ししたら俺の上がり時間。
やはり休日というだけあって店の賑わいは平日の比にならないが、今日のメンバーなら問題ないだろう。
「ほらほら、ユウちゃん先輩は早くお直ししないとー」と急かす時成に後を任せ、控室で手早く着替えとメイク直しをする。
今日着てきた服が、今までの"エスコート"で使った服じゃなくて良かった。
メイク道具も必要な分は揃っているので問題ない。
が、髪は長時間勤務の疲労が強く残ってしまっている。ミストスプレーで対応出来る範囲ではない。
そう判断した俺は渋々サイドに纏めて一度"クルリンパ"をし、程よく緩めてから飾りゴムで結び目を隠す。
髪を結ぶのはあまり好きではないのだが、仕方ない。
(よし、こんなモンだろ)
鏡の前で全身を確認して足早に控室を後にする。
これなら何とか五分前には着けるだろう。
人混みを難なくすり抜けて、目的地のビルの前に辿り着く。
迷うこと無く開いた扉の先は、もはや見慣れた光景だ。
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