カワイイ俺のカワイイ不安

8/21
前へ
/238ページ
次へ
「いらっしゃいませ。"Good Knight"へようこそ」 (……ん?) 聞き慣れない声。 受付前へ歩を進めれば、顔を上げた相手に違和感の正体を知る。 (拓さんじゃないのか……) そういえば、カイさんの予約を取れた事に興奮していて、拓さんの勤務表までは確認していなかった。 すっかり拓さんが受付前に居ることに慣れていた俺は少々拍子抜けしながらも、笑顔で名前を告げる。 身長は俺と同じくらい。 スムーズな対応に中堅層なのだとアタリがつくが、なんというか……。 (……オーラが足んねぇな) 綺麗にカッティングされた艶のある黒髪に、細い銀フレームの眼鏡。キッチリと着こなしたギャルソン服といい、おそらく"優等生"キャラなのだろう。 丁寧に施されたメイクも悪くない。 けれども拓さんやカイさんと比べてしまうと、"イマイチ"足りないのだ。 見た目の華やかではなく、纏う空気感が。 (ま、あくまで俺の個人的な見解だけどな……) 頭の中で分析しながら会計を終え、そのギャルソンが奥の部屋へ声をかける。 「カイさん、お願いします」 現れたカイさんは「久しぶり、ユウちゃん」と笑んで先を促すといつものように扉を開いてくれる。 通って、閉じられる部屋の中からはお馴染みの「それでは、良い夢を」。 勿論、片手を胸に添えるあのポーズで。 そういえば、名前を確認するのを忘れていた。 まぁいいか、と特に心残りもなく、歩き出したカイさんの後ろについて階段を下りる。 「店に戻ってきたら予約者の名前が急にユウちゃんに変わってたから、ビックリした」 「キャンセル待ちで取れたんです。ラッキーでした」 「そうだったんだ。ありがとうね」 足元の注意を促しつつ、カイさんは顔だけで振り返って柔らかく目元を緩める。 そう、コレコレ。 笑み方一つでもやっぱり違う。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加