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「結ぶの、あまり好きじゃないんですけどね」
「どうして?」
「首元とか、肩とか。"目眩まし"が無くなっちゃうんで」
一般男性と比べて線が細い方だとはいえ、単なる"女装"でしかない俺の身体はやはり男性としての特徴が目につく。
カイさんは確認するように数秒ジッと見て、「そうかな」とポソリと呟く。
「気にしなくても、充分可愛いよ」
「そうですか?」
「うん。お世辞じゃなくて、本当に。だからユウちゃんはもっと、自信を持ったほうがいいよ」
励ましてくれているのだろう。
ニコリと向けられた笑みに「ありがとうございます」と返し、いや可愛い自信は呆れられる程にあるけども、という本音は綺麗に心の中にしまい込む。
自信がない、というよりは、美学に反するといった所だ。
これもワザワザ話題に挙げる内容ではない。
すっかり元の調子を取り戻し、他愛ない話しをしていると見慣れた看板が目に入る。
やはり穴場なのだろう。
大通りの喧騒が嘘のようにガランとした通りを進んで、扉を開けてくれたカイさんの促すまま店へ入る。
「いらっしゃ、あー!」
俺の顔を見て驚いたように声を上げたのは、前回情報をリークしてくれた吉野さんだ。
トレーの上にはパフェが二つ乗っている。
「お久しぶりです」と会釈をした俺にパッと満面の笑みを咲かせると、頑張ってと言うように強い目力で大きく頷く。
「どうかした?」
「ううん、なんでもなーい! 席はいつもんとこ空けてるから、悪いけど座っててくれる? 先コレ置いてくるから」
「わかった。ありがとう、里織」
(あ、本当に仲いいんだ)
当人達から聞いていたとはいえ、こうしてさり気ない部分で急にぐっと実感が増す。
「下の名前で呼ぶ関係なのか…」と。
過った靄を慌てて振るい、先導するカイさんの後ろをついて行く。
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