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別に、下の名前で呼ぶことなど友人同士でも珍しくない。
現に俺だって、俊哉や時成(店ではあいらだが)を下の名前で呼んでいる。
何をそんなに引っかかっているんだか。
吉野さんの言葉通り、ポツンと開けられた席はいつも案内される奥の窓側。
その周辺は満席で、中にはカイさんの姿を物珍しそうに盗み見る人も居る。
そりゃ、なんて事ないカフェに突然ギャルソン姿の麗人が現れたら気にもなるだろう。
カイさんは慣れているのか、気にした様子もなく落ち着いた足取りで席に向かうと、ニコニコと笑顔で手を差し出してくる。
あれだ、荷物の催促。
俺がいつも座るのは壁側で、つまり店内の女性の視線がどうしても目に入る。
やり辛さを飲み込みつつ荷物を手渡してソファーへ腰掛ければ、カイさんはいつものようにハンカチを取り出して荷物に被せ、メニュー表を俺に開いてくれる。
少し斜めに組まれた長い足。
後ろの女の子達がキャアキャアと色めき立つ。
(……今度から私服にしてもらおうかな)
確かギャルソン服か私服風か選択が出来たはずだ。
メイドが立っていても不思議ではない立地だからと今までは気にしていなかったが、こうも羨望の目を向けられては気が休まらない。
私服でもカイさんの身長と纏う空気は人目を引くだろうが、ギャルソン服よりはマシだろう。
「落ち着かない? 席変わろうか?」
「……大丈夫です」
ソワソワとしている俺に気づいたのだろう。
苦笑するカイさんはやはり自分に向けられた視線を感じ取っているようだ。
けれども俺だって、一応"同業者"としてのプライドがある。
ここで引き下がっては負けだと背筋を伸ばし、仕草や表情にも気を配る。
つまりはアレだ、"お似合い"だと思わせれば、こちらの勝ち。
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