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「……ミルク、僕が入れてあげます」
「えっ?」
「カイさんに任せたらまた誤魔化されそうなんで。いいタイミングでストップって言ってください。あ、あと砂糖も。……角砂糖なんですね。何個入れますか?」
テーブルに置かれた陶器のシュガーボックスの中身を確認しながら続ける俺は、さぞかしウキウキしていたのだろう。
カイさんは珍しく困惑した表情を浮かべていたが、諦めたように息をつく。
「ユウちゃん、楽しんでるでしょ」
「あ、バレました? カイさんいっつも隙がないから、今すっごい浮かれてます」
「そんなつもりはないんだけど」
「それだけ"徹底されてる"ってコトなんですけどね。スゴいなって思ってます」
「……ありがと」
ん? と。微かな違和感が掠めたのは、笑うカイさんの顔に薄い影を見つけたから。
プロフェッショナルだとを褒めたつもりだったのだが、なにか悪い事を言ってしまったんだろうか。
「おまちどーさま! イチゴのワッフルと紅茶、カイはコーヒーとミルクね」
「里織……ユウちゃんに余計なコト言っただろ」
「ユウちゃんっていうんだー! あたしったら名前聞くの忘れててっ! あースッキリ!」
「スッキリじゃなくて、聞いて」
(なんか、漫才みたいだな)
まったく噛み合っていない会話に吹き出しそうになるのを堪えつつ、「あとコレも」と差し出された取り皿をありがたく受け取る。
聞いていないようで聞いていたのか、伝票を置いた吉野さんは不満気に顔を顰めるカイさんの肩をポンッと軽快に叩く。
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