カワイイ俺のカワイイ不安

17/21
前へ
/238ページ
次へ
「色々ありがとうございました」 「いーえーっ! あの子が"カイ"の時にあんなに取り乱してるの、初めて見たわよ!」 あの子。指し示されているのは、"カイ"さんの"ホントウ"の方だ。 つまり吉野さんは、カイさんと本当の意味の友人関係という事である。 カイとして知り合ったのか、そもそも"カイ"と名乗る前に私的に知り合った仲なのか。 「……カイさんとは、学生時代の知り合いとかですか?」 「ん? んーまぁそんなトコかなー。知り合ったのはココだけど、お互い学生だったし。あ、あたしはあの子の"客"じゃないわよ?」 「はいお釣り!」と手渡された小銭を財布に入れて、さらに鞄へとしまう。 どっちとも取れるが、可能性としては"ホントウ"の時に知り合ったという方が有力だろう。 羨ましい。とはいえ、俺が自力でこの店を見つけられていたとは思えないし、仮に通っていた所でワザワザ他人に声をかける性質でもない。 つまり"カイ"さんではない"彼女"と知り合う、という選択肢は、存在していないのである。 「頑張んなさいよ」 「え?」 突然の励ましに、間の抜けた声が出る。 吉野さんは腰に両手を当てて片目を細めると、ニィッと意地悪気に笑んで。 「ユウちゃんだけじゃないわよ、あの子狙ってるの」 「っ、」 「あたしはユウちゃん推しだけど、選ぶも選ばないも決めるのは"あの子"だからね」 「……あの、吉野さん」 「ん?」 「僕のコト……男だと思ってます? 女だと思ってます?」 「んー、よくわかんない! 可愛い女の子に見えるけど、そう訊くってコトは男の子かしら。一人称も"僕"だし……あ、でも女の子でも"僕"っていう子もいるわね」 んんん? と考えこむポーズをとった吉野さんのあっけらかんとした物言いに、つい呆気にとられる。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加