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「色々ありがとうございました」
「いーえーっ! あの子が"カイ"の時にあんなに取り乱してるの、初めて見たわよ!」
あの子。指し示されているのは、"カイ"さんの"ホントウ"の方だ。
つまり吉野さんは、カイさんと本当の意味の友人関係という事である。
カイとして知り合ったのか、そもそも"カイ"と名乗る前に私的に知り合った仲なのか。
「……カイさんとは、学生時代の知り合いとかですか?」
「ん? んーまぁそんなトコかなー。知り合ったのはココだけど、お互い学生だったし。あ、あたしはあの子の"客"じゃないわよ?」
「はいお釣り!」と手渡された小銭を財布に入れて、さらに鞄へとしまう。
どっちとも取れるが、可能性としては"ホントウ"の時に知り合ったという方が有力だろう。
羨ましい。とはいえ、俺が自力でこの店を見つけられていたとは思えないし、仮に通っていた所でワザワザ他人に声をかける性質でもない。
つまり"カイ"さんではない"彼女"と知り合う、という選択肢は、存在していないのである。
「頑張んなさいよ」
「え?」
突然の励ましに、間の抜けた声が出る。
吉野さんは腰に両手を当てて片目を細めると、ニィッと意地悪気に笑んで。
「ユウちゃんだけじゃないわよ、あの子狙ってるの」
「っ、」
「あたしはユウちゃん推しだけど、選ぶも選ばないも決めるのは"あの子"だからね」
「……あの、吉野さん」
「ん?」
「僕のコト……男だと思ってます? 女だと思ってます?」
「んー、よくわかんない! 可愛い女の子に見えるけど、そう訊くってコトは男の子かしら。一人称も"僕"だし……あ、でも女の子でも"僕"っていう子もいるわね」
んんん? と考えこむポーズをとった吉野さんのあっけらかんとした物言いに、つい呆気にとられる。
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