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今までもこうして見えなくなるまで見送ってくれてたんだ、と思った瞬間に、キュウッと締め付けられる胸。
いやいやだから、これは客の尾行を避ける為で、皆にやってることなんだって。
会釈して、少し足早に角を曲がる。
何かがおかしい。この気持ちはどう考えても、"目的"に不要ななモノだ。
混乱に薄汚れたアスファルトを見つめながら路地を進んでいても、迷わないのはこの立地にすっかり身体が馴染んでいるからだ。
「ユーウちゃん」
不意に、聞こえた声にビクリと肩が跳ねる。
止まった足。え、だって、この声は……。
「、拓さん」
夕焼けを背に、ヒラヒラと手を振る拓さんはいつもの笑顔を浮かべたまま、俺の目の前まで歩を進める。
細身のジーンズに、首元がゆるく開いたカットソーと長いカーディガン。
カイさんの口ぶりも考慮すると、仕事中では無いことは明白だ。
「こんなトコで、何してたんですか?」
「んー、ユウちゃんに会えるかなって思って」
(ってコトは、やっぱり"偶然"じゃないな……)
あの店を懇意にしているコトはきっと知っているのだろう。
とはいえ、それから俺の帰路を予測して待っているなんて、博打もいい所だ。
つまり"それだけ"、俺に会う必要があったという事。
「……何か、ありました?」
「何かってワケじゃないんだけど、ちょーっと個人的なオハナシがしたくてね」
嫌な予感がする。
俺の焦燥を煽るように、拓さんは目を細めてゆるりと口角を上げる。
逃がさない。
そう、無言の圧をかけるように。
「他の人とはなーんか違うなーって思ってたんだけど、やっぱり人気モノだったんだね。"めろでぃ☆"ナンバーワンの、ユウちゃん?」
「っ」
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