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バレた。
店名まで特定されていては、言い逃れは出来ない。
さぁ、どうする。
別に"同業者"が客となってはいけないなんてルールは無かった筈だ。単純に興味があっただけだとしらを切れば、それ以上の詮索は不能だろう。
拓さんの本意を探るように、全神経を張り詰める。
まだ、ここで。こんな中途半端な状態で、ゲームオーバーには出来ない。
猫ならば、まさしく全身の毛を逆立てている状態。
そんな俺に拓さんは、ブハッと吹き出す。
「アッハハ! やっぱユウちゃん面白いね! そんなに警戒しないでよ」
「っ」
「カイには内緒にしててほしい?」
「……はい、って言ったら、黙っててくれるんですか」
「うん、いいよ。その代わりってーのもなんだけど、お願いがあるんだよね」
「……お願い?」
「"めろでぃ☆"に行きたいんだよね。ユウちゃんが働いてる時に」
「な、」
人差し指を口端に添えて、「ね?」とお伺いを立てる拓さんの向ける笑顔は軽薄で真意が掴めない。
(……これ以上探っててもらちがあかない、か)
「……いいですよ」
「おっヤッタ! いついる?」
「直近なら明日と、火曜と木曜の十五時以降に」
「んーそっかぁ……。んじゃ火曜にしよっかな」
「わかりました。ウチは予約制ではないんで、お好きな時に来てください」
「ん、りょーかい」
笑顔のまま敬礼のポーズをとった拓さんが「あ、駅まで送ろうか? 危ないでしょ」と覗き込んでくるが、それには丁重に断りを入れる。
目的が見えない今、これ以上の不要な会話は危険だ。
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