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「こんにちは、ユウちゃん」
細身のジーンズ、緩いカットソー。
黒いレザーのジャケットをスラリと着こなすその人は、ニコニコと十八番である愛想の良い笑みを浮かべながら俺に手を数度振る。
頭の中で鳴り響く開始のゴング。
俺はキチンと笑顔をつくり直して、頭を下げる。
「おかえりなさいませ、拓さん。少し待ってて貰えますか?」
「ん、りょーかい」
もはや癖なのだろうか。
店に居る時のように軽く片手を胸元に添えた拓さんに苦笑し、先にアイスティーを目的のテーブルへと運ぶ。
こちらのお客様は常連のおじさまだ。
入店のベルも心得ているのか、アイスティーを置いた俺に「いっていいよ」と笑顔を向けてくれる。
「ありがとうございます」と礼を告げ、興味深そうにチェキ撮影用のブースを観察していた拓さんの元へ。
「お待たせしました。奥にカーテンのある個室タイプもありますけど、ホールとどっちがいいですか?」
「んー、ユウちゃんがお仕事してるトコ見たいし、ホールがいいな」
「かしこまりました。ご案内します」
メニュー表を一冊抱え、拓さんを誘導する。
パット見、細身でスマートなイケメン。(そこに更に軽そう、というイメージも加わるが)
そんな拓さんに注がれる物珍しそうな視線は既に予想済みだ。
案内するのはホールの一番奥の壁側。
事情を知る時成にも協力してもらい、来店予告をしていた拓さんの為に空けておいた席だ。
まぁ、当の拓さんはどこ吹く風で、ジーンズのポケットに指を引っ掛けた堂々たる足取りな訳だが。
先日のカイさんといい、この人達は"視線慣れ"しているのだろう。
「こちらにどうぞ」
「ありがと。よいしょっと」
「ちょ、拓さんその掛け声はちょっと……」
「あ、やっぱおじさん臭い? カイにも"せめてエスコート中は止めてください"ってよく注意されるんだよねー」
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