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「こちらへのお帰りは初めてですか?」
「おか!? おかえり、」
「失礼しました。当店へのご来店は初めてですか?」
俺の質問にパニック状態になってしまった彼に、言葉を直して再度尋ねる。
取り乱した羞恥からか、俺の笑顔に見惚れたのか。
一気に真っ赤になった顔を伏せた彼は、小さく「……はい」と呟く。
柔らかそうな癖のある黒髪。
「そんなに緊張なさらなくても、とって食べたりしませんよ」と冗談めかして笑う俺にオズオズと上げられた顔をよく見れば、目はくりっとしていて小動物的な可愛さがある。
「……あの」
「はい、なんでしょう?」
モゴモゴと口籠る彼の言葉を笑顔のまま静かに待つ。
余程言い辛い内容なのか、両手の指を組み合わせて親指を擦る彼は耳まで真っ赤で、非常に有望な人材……じゃなかった、庇護欲が掻き立てられる。
彼は意を決したように俺を見上げると、「あの、」と繰り返して。
「そのっ、ココで働いてるひとって、みなさん男性なんですよね?」
「? ええ、勿論全員、性別は"男"ですよ」
「そ、ですよね……。あの、あなたも、あちらのツインテールのひとも」
「はい、男です」
「証明するにも、お見せできるのは喉仏くらいですけど」と軽く顎先を上げ、首に巻いたフリルのチョーカーに指先を差し込んで見せた俺に、その彼は恥じるように「わわわスミマセンっ!」と両目を覆う。
いやまぁ、確かにちょっと色気は意識してみたが、そこまで過剰反応されると少々申し訳ない気持ちになる。
「失礼しました」と苦笑した俺に、彼は「いえ……本当すみません……」と縮こまってしまう。
(失敗したかな)
緊張を解くつもりが、逆効果だったかもしれない。
そんな反省が浮かんだ俺に、彼はポソリと呟く。
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