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俺は出来上がったオムライスプレートをトレーに。
手早く注いだグレープフルーツジュースとストロー、結局用意出来なかったスプーンとケチャップボトルも乗せて、視線を寄越したあいらに肩を竦めて通り過ぎる。
たったこれだけでも、先程の余韻が残る店内での効力は抜群だ。
「お待たせしました、拓さん。オムライスプレートです」
「わーおしそー!」
「それと、グレープフルーツジュースです」
「手前すみません」と断りを入れ、コースターとグラス、ストローとスプーンを置く。
拓さんは頬杖をついていた右手を一度膝へ下ろしつつ、ご機嫌そうにその様子を眺めてから「ユウちゃんってさ」と片目を細める。
「いっつもあーやって"オトして"るんだ?」
「、」
(やっぱ見えてたか……)
拓さんが揶揄しているのは、先程の"有望な人材くん"とのやり取りだろう。
心の中で警戒しつつ顔には苦笑を浮かべ、手にしたケチャップボトルで置いたプレートに鎮座するオムライスへハートを描く。
「そんな人聞きの悪い。あれは単なるお客様との"コミュニケーション"で、言うなら"サービス"です。拓さん達と一緒ですよ」
「ふぅん? オレにはあの彼、もうユウちゃんにメロメロ! って感じに見えたけどねー」
「メロメロって……語弊がありすぎです。そう言ったら僕はカイさんにメロメロってコトになるじゃないですか」
「違うの?」
「ちが、」
違う、と返そうとして、言葉に詰まる。
ここで否定してしまえば、"なら、なんでカイさんの元へ通いつめているのか"と突っ込まれかねないからだ。
「……わない、ですけど。"客"であり"サービス"だっていう分別はついてます」と繋げた俺に、拓さんは「そう? ま、いいけど」と話を打ち切る。
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