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何はともあれ、とにかく今は、ちゃんと仕事をしないと。
目を閉じ首を回して、苛立ちを吐き出すように息をつく。
(……よし)
戻ってきた"ユウ"の感覚に心を落ち着かせ、ナイフとフォークをトレーに。
伝票を手に向かうのは、"有望な人材くん"の元だ。
「お待たせしました。パンケーキプレートです」
「はっ! あ、はいっ」
「すみませんっ!」と勢い良く頭を下げる彼の頭突きをくらわないよう、タイミングをしっかりと見計らいプレートを置く。
ホワホワのパンケーキの上に乗せられているのはバターのみ。
その横にホイップクリームをデコレーションし、甘酸っぱいベリーミックスのジャムとメープルシロップは小皿で別添えにした。
お客様自身で甘さを調節出来るように、という配慮である。
余程我慢していたのだろう。
恍惚とした表情でパンケーキを見つめる彼に、「どうぞ、お召し上がりください」と笑顔で促す。
食べてこそのパンケーキだ。
ハッとしたように一度俺を見上げてコクコクと頷いた彼が、「いただきます」と小さく呟いてフォークを手に。
重ねられた上部の一枚にホイップクリームをたっぷりと乗せると、少し迷ってからベリージャムを小鉢の半分程かける。
ナイフで切り分け、震えるフォークで口に。
「いかがですか?」
「っおいっしい、です……っ! 本当に! とても!!!」
そう言って彼は今度はメープルシロップの小鉢を手にとると、先程のパンケーキの上に半分程を垂らす。
つまり今パンケーキの上には、ホイップクリーム、ベリージャム、メープルシロップのそれぞれが地層のように積み重なっている事になる。
いくらジャムの甘さを抑えているとはいえ、結構な甘さだろう。
呆気にとられる俺を他所に彼はその贅沢盛りを咀嚼すると、幸せそうに花を飛ばす。
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