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大好きなモノを食べて、「美味しい」と笑う人の顔が好きだ。
コウくんの顔に、ワッフルを嬉しそうに食むカイさんの顔が重なる。
彼女は今頃、"カイ"ではなく"ホントウ"の自分として、どこかで誰かとお茶でもしているのだろうか。
別のお客様とも言葉を交わし、それを細かく繰り返しながら時成の元へ近づいていく。
ある程度の距離まで詰めれば、予想通り時成の方から「ユウちゃん先輩ー」と抱きついてくる。
撫でて撫でてと強請る子猫のような仕草を見せる時成に呆れ顔をつくり、「よしよし」と飼い主よろしく頭を数度撫でてから、時成の耳元に手を添え顔を寄せる。
表情は少し大人っぽく、悪戯な艶を造ったほうがウケがいい。
テーマは『メイド達の秘事~ご主人様にはナ・イ・ショ~』だ。
まぁ、内容は単なる業務連絡なワケだが。
「さっきの彼、呼び方は"コウ"でよろしく」
囁いた俺に時成は笑みを作ると、同じように俺の耳元を隠すように手を添え顔を寄せる。
「コウさんですねー。了解しましたー」
それから二人で視線を合わせ、微笑み合って完了だ。
周囲のお客様方の反応に満足しつつ持ち場を入れ替わるように時成とすれ違い、別のお客様の席へ。
「あいらちゃんと何話してたの?」
「残念ながらご主人様にもナイショです。言ったらきっと、あいらが拗ねちゃう」
「えーあっやしいなー」
ふふっ、と肩をすくめて人差し指を立てて。
そんな俺の反応に、お客様は楽しそうに笑う。
多少仕草を変え言葉を変え、似たやり取りを数回続けるのはアチラ側の時成も一緒だろう。
オーダーを受けたり運んだり、時に会計に入ったりと本来の飲食店としての仕事をこなしつつ、ホール内を動き回る。
少し水でも飲むか。
さり気なくパントリーに入ると、チーズケーキを皿に乗せていた時成が「あー先輩いいところにー」と手招く。
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