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「……どうしてそれを僕に?」
わからない。
そう苦笑しながら返した俺に、拓さんはニコリといつもの笑顔を向ける。
「なんでだろうね。ユウちゃんが話しやすいからかな?」
「またそうやって誤魔化して。本当はちゃんと理由があるんじゃないんですか?」
「"つい"だって、ホントに」
("つい"、だ?)
まさか。
あの顔は"つい"でするような顔じゃない。
だがもし、俺の憶測が杞憂ではなく拓さんが本当に疑念を抱いていた場合、コレ以上の詮索は余計に核心へと近づけるだけだろう。
涼しい顔でチーズケーキを食む拓さんに「拓さんってカイさんのコト大好きなんですね」と微笑むと、「あ、妬いた? ユウちゃんも大好きだよ」とお得意の営業トークをかましてくる。
出来ればこの流れで拓さんがこの店に来た目的を探りたかったが、こうなってしまっては無理だろう。
いや、"上手く逃げることが出来た"と思っておくべきか。
「ユウちゃん先輩ー」
「あいら」
ツンツンと肩をつつかれ振り返るとあいらの姿。
「あちらのご主人様がユウちゃん先輩お待ちですー」
「あ、ありがと。失礼します、拓さん。ごゆっくり」
「うん、頑張って」
拓さんに頭を下げて、あいらの示したお客様の元へ。
(ナイスタイミング、だな)
あの場にいても、今の乱れた思考では利点は何一つなかっただろう。
心の中で嘆息して顔はしっかりと笑みを作る。
このお客様は確か、三度目のご来店だ。
「お待たせいたしました」
「ああ、ユウちゃん。オムライスを頼むよ」
「オムライスプレートですね。ありがとうございます」
エプロンから取り出した注文用紙にペンを走らせると、そのお客様はメニュー表で顔半分を隠し声を潜ませる。
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