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(天然ドジっ子……眼鏡、敬語)
そのポディションは貴重だぞ、と喉元まで出かけた言葉を何とか飲み込んで、「またいつでもお帰りくださいね」とピッタリ置かれた代金を打ち込み、レシートと一緒に仮会員カードを渡す。
次のご来店に正式な会員カードと取り替えるというこの業界では珍しくない代物だが、コウくんは見慣れていない可能性が高いのでキッチリと説明をして。
「ありがとうございます……」
案の定、コウくんは感心したような顔で呟くと、二折り財布の一番手前のポケットに収め満足そうにはにかむ。
そして再び姿勢を正すと、「絶対っ! また、来ます!」と頭を下げる。
勢い余って、だろう。
店内の喧騒をかき分け響いた声に、数秒の間。
BGMだけが流れる空間に気づき、コウくんが「あっ! スミマセっ」と涙目で慌てふためく。
「そー簡単にユウちゃん先輩は渡しませんよー」
「、あいら」
俺の背後から腕を回して伸し掛かかってきた時成に、コウくんは「そ! いうことじゃっ!」と更に真っ赤になってしまう。
とはいえ、お陰でお客様の視線はコウくんから離れた。
"あいら"が"ユウ"に絡むのは"良くある風景"だからだ。
「あいら……変なコト言ってコウさんを困らせないの。スミマセン、気にしないでください」
「あ、はいっ! いえ、コチラこそ、スミマセンでした……」
ペコペコと頭を下げたコウさんは、あいらへ視線を向けるとへにょりと笑う。
「あいらさんも、ありがとうございました。いっぱいお話して頂けて、嬉しかったですっ」
「……仕方ないですねー。次のご帰宅も許可します」
「コラ、あいら」
咎める俺に時成はふいっとソッポを向き、そんな俺達のやり取りにコウさんは微笑ましそうに頬を緩めて「それじゃあ、また」と扉を開ける。
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