カワイイ俺のカワイイ接客

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「お早いお帰りをお待ちしております」 見送りの常套句を述べながらあいらと二人で頭を下げる。 「……ちょう欲しい人材ですねー」 「……ダメだぞ」 階段を降りていく姿を見送りながらポソリ呟く時成に、息をつく。 「わかってますってー」と返してくるが、ニタリと笑むその顔はお客様にお見せできない顔だ。 果たして本当に、わかっているのか。 「ついでもコッチも会計いい?」 「っ、拓さん」 「ごちそうさま。お腹いっぱいだよ」 そう言って拓さんは自身のお腹を撫でてみせるが、正直布が押され身体の薄さが際立っただけだ。 イケメンの(女性だが)お腹は膨れないのか。謎である。 「じゃーおれはホール行っときますー。拓さんまたのご帰宅をお待ちしてますー」 「うん、またねあいらちゃん」 笑顔で手を振る拓さんに時成は嬉しそうにはにかむと、大人しく背を向けてホールへ戻っていく。 てっきり見送りまで居座るもんだと思いきや、少々拍子抜けだ。 (ま、結構席で話してたっぽいしな) 残された俺は伝票を受け取って、レジへ回ると番号を打ち込む。 表示された金額に拓さんは「大きくてゴメンね」と五千円札を取り出し、返したお釣りを薄い長財布にしまう。 あまり小銭は持たない主義なのだろうか。 それともコレも"徹底ぶり"なのか。 「仮会員カードいりますか?」 「え!? いるいる! ちょーだい!」 一応の問いかけに目を輝かせはしゃぐ拓さん。 またこの店に来る意思はあるようだ。 拓さんがいるとやり辛いのは否めないが、それで女性客が増えるのならと囁く自身もいる。 「この後はご帰宅ですか?」 「うん、今日はこのまま帰ってゴロゴロするよ。あー! 今夜は楽しい気分で寝れそう」 「それなら良かったです」
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