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仮会員カードしっかりと収め、財布を後ろポケットに差し込むと「んじゃ、次はウチの店でかな?」と笑う。
拓さんだってそこまで頻繁に来るつもりはないだろう。
次に会うのはきっと、"Good Knight"だ。
「そうですね」。肩を竦めた俺に、拓さんは「お待ちしております」と例のポーズを作ってみせる。
私服姿でもキマってしまうのが、この人のスゴい所だ。
「じゃ、またね。残りも頑張って」
扉を開けた拓さんに「またのご帰宅をお待ちしております」と頭を下げる。
と、拓さんは少し考えた風に俺を見て、「ねーねーユウちゃん」と口端を上げる。
「さっきのアレ、やってよ」
「さっきの?」
「うん、スカート持つやつ」
「っ、」
(みて、たのか……)
抜かり無いなと痛む額に指先を当てた俺に、拓さんはワクワクとした期待の眼を向ける。
仕方ない。
ならばいっそ、全力でやってやろうじゃないか。
従順で、でも微かに毒と色が香る。
そんなとびっきりの"ユウ"の笑み。
「お早いお帰り、お待ちしております。拓さん」
両手の指先でスカートの裾を持ち、顎を引く程度で頭を下げる。
顔が見えなければ意味がないからだ。
そんな俺に拓さんは満足そうにクックッと笑うと、「やっぱりユウちゃんはカワイイね」と片手を上げて、扉の向こうへ去って行く。
やれ、と言ったのはアンタだろうが。
そんな苦言は勿論、心の中だ。
(やっと、終わったな)
なんだか一気にどっと疲れた気がする。
踵を返してパントリーに入ると、ちょうど皿やらグラスやらを下げてきた時成に遭遇する。
「二席とも片付けバッチリですー」
「ああ……ありがとな」
「いーえー。お疲れ様でしたー」
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