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クスクスと笑う時成は俺の心中を察してだ。
「おはようございまーす」響いた声に反対側の出入り口を見ると、次のシフト枠の子達が笑顔で入ってくる。
どうやら丁度、バトンタッチの時間らしい。
助かった。
息をつきながらオーダー表を受け渡し、キッチンへ声をかけて時成と共に控室へ向かう。
休憩時とシフト上がりにはドリンクが好きに飲める。
俺の手にはアイスティーのグラス、時成はオレンジジュースのグラスにしっかりとストローを入れている。
「……拓さん、何しに来たんだろうな」
結局最後まで振り回されてばっかりだった。
流石はカイさんの尊敬する先輩だ、と椅子に腰掛け、ぐったりと机に伏せる俺の対面で時成が「そうですねー」と頬杖をつく。
じゅーっとオレンジを吸い込みながら暫く黙考し、「……考えられるのは二つですかねー」と人差し指を立てる。
「そのいちー。単純に来てみたかったー」
「……無くもないな」
「そのにー。牽制しにきたー」
「……」
"牽制"。その言葉に"許さない"と言った拓さんの顔が浮かぶ。
もしかしたら拓さんは俺の"目的"を察知して、時成の言うとおり"牽制"に来たのかもしれない。
あの言葉を伝えるために、わざわざ今日ここに来た。
そう考えると、向けられた鋭い眼にも説明がつく。
「バレたかもな」。そう続けようとした矢先、時成は「でもそれも違うと思いますー」と指を下ろす。
「え?」
「おれ、最初はコッチかなーって思ってたんですよ。でも単なる思い過ごしですねー」
「……根拠は?」
「カイさんのコトを話す時も、先輩を見ている時も、拓さんはどっちも優しい目をしてましたー」
「……は?」
それがどうして否定材料になるのか。
検討がつかない。そう顔にする俺に、あいらは溜息をついて説明を続ける。
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