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「ユーウちゃーんせーんぱーいー!」
目の前振られる手に、ハッと意識が戻る。
「どうしたんですかー?」と心配そうに覗きこむ時成に、「あ、ああ……」と視線が彷徨う。
(なんだ、コレ)
急速に早まる心臓は予感に対する焦りだ。
首の後ろがジワリと熱を持ち、それでも頭部はやけに冷えている。
「な、なぁ、時成」
「……、なんでしょう?」
「カイ、さんは……どう思う?」
「え?」
時成は珍しい物でも見るような顔で俺をしげしげと観察して、「どう、って言われましてもねー」と椅子の背もたれに寄り掛かる。
「おれは実際にカイさんに会ったコトないんで、さすがに判別つきませんー」
「っ、……だ、よな」
「まぁでも先輩の話しを聞いている分には"男嫌い"ってコトはなさそうですー」
「良かったですね、先輩」と両肘をつき、頬を乗せるように顔を乗せた時成はニッコリと笑む。
「……なにが良かったんだ?」
見えない焦燥は何一つ拭えちゃいない。
向けられる笑顔に苛立ちを滲ませながら返した俺に、時成は余裕の表情で言う。
「カイさんが男性を恋愛対象としていなくても、"男嫌い"でなければ"オトモダチ"計画には支障ありませんー」
「っ」
時成の言う通りだ。
現状、俺とカイさんの関係は極めて良好と言えるだろう。
多少の誤解はあるにしろ、カイさんと近しい関係者にも至って好意的に受け止められている。
"オトモダチ"計画は、円滑かつ順調。
そこにカイさんの"恋愛感"など、一切関係ない。
少し考えれば直ぐに気づける話し。
一体何を懸念していたんだと、無意味に騒ぎ立てる鼓動に落ち着けと言い聞かせるが一向に収まる気配を見せない。
(なにをそんなに)
困惑する俺。そして追い打ちをかけるように、時成が口を開く。
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