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「……中途半端な気持ちで来られても、お荷物なだけだぞ」
「そんなコト言うなって。だれでもキッカケは、小さな好奇心だろ? それに、今の人数じゃいざって時に困るしな」
「いざって状況にならなきゃいい」
「鬼教官かよ」
ズビシと裏手で宙を突っ込んで、明崎は「でもまぁ」と言葉を続ける。
ほんの、冗談だった。
あの眼に灯った僅かな熱に、好奇心が燻っただけで。けど。
「振ったな、アイツ」
「……」
「まさかホントに、振るとは思わなかった」
つい、ではない。あれは最初から、"狙って"いる構えだった。
思い返して嬉しそうな笑みを零す明崎に、蒼海は息をついてグローブの中のボールを手に取る。
これは確信のある表情だ。どうせ、面倒なコトになる。
「……手、空いたんならうけろよ。ネット相手は飽きた」
「あ、オケオケ。メット置いてくっからちょっと待ってな」
カチャカチャと小走りで離れた明崎は外したメットとマスクを転がし、先程と同様に置かれたホームベースの後ろへと戻る。
蒼海は投球位置へ戻りながら、フォームチェックを重ねているようだ。
明崎はのんびりとしゃがみ込み、んーと片腕を伸ばしながら蒼海のタイミングを待つ。
先程のドロップはとてもキレていた。偶然、だとは思うが。
(なーんだかんだで、蒼海もまんざらじゃないのかも)
古義がバットを振った瞬間、蒼海が驚きに目を見開いたのを明崎は見逃さなかった。
同時に纏ったオーラからは嫌悪が消え、微かな好奇がチリリと灯ったのも。
だといいなーと思案しつつ、セットポディションに立った蒼海にミットを構える。
絶対ではない、半分以上は期待だ。
けれども"また"と、口にしたくなる程に、古義の反応は"良かった"。
(……さて、どう転ぶかな)
蒼海の振り上げた腕を視界に入れて、明崎は緩んだ思考を引き締める。一瞬でも気を抜けば、蒼海の球は綺麗に捕れない。
リリースされた球体に全神経を集中させ、明崎は青空の下でで高音を響かせた。
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