第1章

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そうか私、50年間年とってないのか。私はふと浮かんだ疑問を投げかけてみる。 「そう言えば、どうしてあんな適確に私の記憶と結び付く匂いを嗅がすことができたの」 「博士の研究の賜物です」 「その博士の名前は?」 男が少し間を開けてから答える。 それは私がただ一人好きになった男性の名前だった。 「そろそろ宜しいでしょうか。あなたのコールドスリープを再開したいのですが」 「最後に1つだけ。その博士は今、どうしてるの」 聞かないほうがいい気もしたが、聞かずにはいられなかった。 「去年の夏、車にはねられ亡くなられました。現在の技術をもっても頭部の損傷だけはどうしようもなくて」 「……そう」 悲しいはずなのに涙は出てこなかった。 「それでは、コールドスリープを再開させて頂きます。5年後にまたお会いしましょう」 男がそう言うと私を照らしていた照明は消え、私が入っている箱の唯一空いていた部分は閉じた。 箱の至るところから流れてくる冷たいガスによって、身体は急激に冷され、頭の芯がユラユラとし、目蓋はだんだんと重くなっていく。愛する人が死んでしまった以上、私が5年後に目を覚ますことは恐らくないだろうなという推測が頭に浮かんだところで、私の意識は途切れた。                      (了)
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