記憶喪失の9割はショック療法で治る

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 そもそも本当にぼくの妹かどうかはっきりしないのだ。安易に受け入れるのは危険と言えよう。が、自分に関する記憶を失ったぼくにとって唯一の手がかりは、不幸なことに目覚めたときに眼前にいた、この少女だけ。なんせぼくは衣類以外の装備品は身につけておらず、おまけにここがどこかわからないのだから。  広さ六畳ぐらいの空間には、勉強机とベッド、そしてファンシーなぬいぐるみやアクセサリーが置いてあった。いかにも女の子らしい部屋だ。事実、ここは絵美里の部屋らしいが、迂闊に信用していいものか躊躇してしまう。  かといって、この部屋から出る勇気はなかった。  彼女の言うとおり、ここがぼくたちの住む家ならば、単純に廊下なり別の部屋なりに移動して終わる。  けれど、もし彼女が嘘をついていたとしたら? 実はぼくが誘拐事件の人質で、彼女がその見張り、もしくは実行犯だっら? ありえなくは、ない。この可能性をゼロと証明できないかぎり、ぼくはドアノブに手を伸ばすことすらできないだろう。  ならば、ここは絵美里の指示におとなしく従うのが、妥当な気がする。 「ほらほら。横になって、お兄ちゃん」
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