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力尽きたぼくを見おろし、絵美里が目に涙を浮かべて笑う。反撃する気力も起きず、ぼくは無言でにらむしかなった。
「ごめんごめん。そんな怒んないでよー、お兄ちゃん」
ぜんぜん誠意のない謝罪である。手をあわせてはいるが、目は笑いっぱなしだ。
「あんなショック療法があるか!」
「だって、電気ショック療法の装置がなかったんだもん」
「ぼくを殺す気か!」
怒りのあまり自然と体が起きあがる。
「まあまあ。次のショック療法試してみようよ。ね?」
「ったく、しょうがないな」
小首をかしげて上目遣いでお願いされると、あまり語気を荒げる気にならない。やはりヘタレなのか? ぼくは。ああ、情けないことこのうえない。
ただ、こいつもこいつなりに一生懸命なのかもな。やりかたは無茶苦茶だけど。
そこで、ふとあることに気づいた。
「ところで、ぼくはどうして記憶喪失になったんだ?」
ぼくとしたことが、うっかり肝心な部分を聞き忘れていた。原因がわかれば、案外ぼくの記憶はあっさり戻るんじゃないか。
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