我が娘

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昔から手のかからない子だった。というよりは随分、霖に我慢させていたと思う。私は正社員で働き、時には残業で遅くなってしまうこともあり、霖を実母に預け、私が帰って来るまで見ていてもらっていた。小さかった霖は、私の顔を見ると、満面の笑みでお帰りなさいと言ってくれた。 その笑顔に何度、私は救われたんだろう。 中学・高校生になると、部活動で忙しそうだったが、毎日楽しそうだった。 思春期で、反抗期があるって聞いたけど、霖はそんな気配はなかった。(主人に対してはあったかも知れないけれど)学校の話や今興味があることなど話してくれたし、都合さえ合えば、買い物にも行くし、お菓子を作ったりと、私にとっても充実していた。 そんなある日───。 霖の大学の美術展あり、美術館から帰って来て凄く嬉しそうに話してくれた。 「今日ね、絵を見に来てくれた人達に絵の解説をしたの。スーツ姿だったから、凄く緊張しちゃったんだけど、一人の人が面白いことばっかりいうから、笑いすぎてお腹が痛かった」 思い出し笑いをしていた。 美術館で笑いすぎる状況って、どういう状況なのかしら? 「美術館で笑いすぎるって?その人、絵を見に来たのよね?」 そう聞くと、霖は笑いをおさめながら、こう答えた。 「実はね、その人は暑さを凌ぐために、美術館に入ったんだって。もう一人の人は違うって言ってたけど。確かにこの残暑だったら、入りたくなるよね」 いやいや、霖ちゃんそれは、お仕事サボっているのよ。
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