23人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
昔から手のかからない子だった。というよりは随分、霖に我慢させていたと思う。私は正社員で働き、時には残業で遅くなってしまうこともあり、霖を実母に預け、私が帰って来るまで見ていてもらっていた。小さかった霖は、私の顔を見ると、満面の笑みでお帰りなさいと言ってくれた。
その笑顔に何度、私は救われたんだろう。
中学・高校生になると、部活動で忙しそうだったが、毎日楽しそうだった。
思春期で、反抗期があるって聞いたけど、霖はそんな気配はなかった。(主人に対してはあったかも知れないけれど)学校の話や今興味があることなど話してくれたし、都合さえ合えば、買い物にも行くし、お菓子を作ったりと、私にとっても充実していた。
そんなある日───。
霖の大学の美術展あり、美術館から帰って来て凄く嬉しそうに話してくれた。
「今日ね、絵を見に来てくれた人達に絵の解説をしたの。スーツ姿だったから、凄く緊張しちゃったんだけど、一人の人が面白いことばっかりいうから、笑いすぎてお腹が痛かった」
思い出し笑いをしていた。
美術館で笑いすぎる状況って、どういう状況なのかしら?
「美術館で笑いすぎるって?その人、絵を見に来たのよね?」
そう聞くと、霖は笑いをおさめながら、こう答えた。
「実はね、その人は暑さを凌ぐために、美術館に入ったんだって。もう一人の人は違うって言ってたけど。確かにこの残暑だったら、入りたくなるよね」
いやいや、霖ちゃんそれは、お仕事サボっているのよ。
最初のコメントを投稿しよう!