我が娘

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背筋をピンと伸ばし、玄関入口の方をまっすぐ見、外の景色を眺めていた。外の通りは近くの企業の社員達や通行人で行き交っている。 受付の子にお礼を言って、 「霖、どうしたの?」 そう声をかけると、こちらを振り返り安心したように、微笑んだ。 「お母さん、これ忘れたでしょ?」 私にA4サイズの茶封筒を差し出す。 これは…。今日キッチンのテーブルに置いておいたものだ。 「これ、届けてくれたの?ありがとう。でも、今日は必要なかったのよ。せっかく届けてくれたのに、ごめんね」 霖は驚いて、 「えっ、そうなの?それなら、こっちこそごめんね。今忙しい時期だよね」 申し訳なさそうにそう言った。 「大丈夫よ。もとはといえば、私が置いてそのままにしておいたから。霖こそ、他に用事があったんじゃなかったの?時間大丈夫?」 今日は大学の授業が休講だったらしく、朝食の時に出掛けると言っていた。 「もう、用事なら…」 霖が答えようとした所で、 「三枝課長はこんなとこで立ち話ですか?暇そうですな」 嫌味を含んだ声がした。 その方を向くと、いかにも、中年男性を絵にかいたような恰幅の男性で、尚且つ機嫌が悪そうな企画部の市川課長だ。 何かと人の粗を探してはいつも嫌みを言ってくる、まるでそれが趣味みたいな人で、はっきり言って苦手だ。
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