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そんな事言えるわけもなく、ニッコリ笑って言った。
「市川課長、今うちの部署で暇な人などいませんわ。もしそう見えていたのなら、申し訳ありません」
頭を軽く下げると横にいた霖も頭を下げる。
それに気づいた、市川課長は
「そちらは娘さん?」
というので、はいと答える。
霖は市川課長をまっすぐ見つめて、こう言った。
「初めまして、娘の霖です。母がお世話になってます。今日は私が勘違いして母に届け物をするために、ここに来て母を受付の方に呼んでもらいました。忙しい時期に申し訳ありませんでした」
もう一度、頭を下げた。
…霖。あなたが、謝ることではないのに…。
出来れば、その場で言ってあげたかった。
その霖に何かを言おうと市川課長が口を開こうとした時、別の声がした。
「市川課長、ここにいらしたのですか?探しましたよ」
それは低いけど、若い男性の声だった。
「…石黒くん」
市川課長に声をかけたのは、私と同じ部署にいる部下の石黒 誠だった。
「なんだ、石黒」
不機嫌のままに市川課長は石黒くんに言った。
石黒くんは、ツカツカと歩いてきたかと思うと、私と霖の前に立ち資料らしき物を市川課長に手渡した。
石黒くんはヒールのはいた私より長身の為、市川課長が見えなくなった。
「うちの高瀬が渡すようにと。至急、回答が欲しいそうです」
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