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高瀬 仁は私と石黒くんの上司で、役職は部長だ。
私は入社時から、仕事に関して尊敬している人物で後で知ったことだが、主人とは大学時代の同級生でもある。
市川課長は苛立ったように資料を受け取りながら、ページをめくって
「何故、本人が来ない!」
と石黒くんに言った。
いくら部署が違うとはいえ、課長が部長に対して、その言い草はなんだろうか?
市川課長より高瀬部長が年下だからかしら?
半ば呆れていると、石黒くんは、冷静に対応した。
「ただ今、高瀬は接客中です」
市川課長を相手しながら、石黒くんは私達をチラッ見て離れるよう合図した。
私は頷いて、
「市川課長、お忙しいようですので、これで失礼します」
と伝え一礼し、霖を連れて踵を返した。
霖も私に習い、失礼しますと言ってから一礼して、慌てて私の後に付いてきた。
後ろの方では、市川課長が何かを言っていたが、石黒くんが
「至急、お願いします」
と感情のこもらない声で言ったので、黙ってしまった。
霖は一度、心配そうに二人の方を振り返ったが、何も言わなかった。
部長は何度か市川課長に嫌味を言われていることを知っていた。
きっと、市川課長に出くわすだろうと思って、わざと石黒くんに用を頼んだのだろう。
ありがとうございます、部長。石黒くん。そう心で言って、会社を出た。
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