石黒くんと梓くん

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行きつけの店に行くと、ランチタイムを過ぎたというのに満席だった。 顔馴染みの店員が近づいてきて、 「ごめんなさいね、ご覧の通り満席なの」 と申し訳なさそうに言った。 「いいのよ、また来るわね」 そう答えて出ようとすると、 「ここ、空きますよ」 若い男性が店員に声をかけた。 その声の方を見ると、うちの社員で石黒くんとよく一緒にいる梓 和樹だった。 梓くんは伝票を持って会計を済ませてから、 「お先です、三枝課長」 私達の横を通り過ぎようした。 「ごめんなさいね、梓くん」 梓くんに言うと、首を横に降ってから、 「いいえ、お嬢さんとごゆっくり」 爽やかに笑って去って行った。 あれ、なんで霖を娘って分かったのかしら? でも、雰囲気からして分かるよね。 「三枝さん、お待たせしました。どうぞ、こちらへ」 店員にそう言われ、霖と席に着く。 席に着いてから、さっきから黙っていた霖に声をかけた。 「霖、驚いたでしょう?ごめんね、嫌な思いさせて」 「ううん、驚いたけど、忙しい時期なんだから…。石黒さん、大丈夫かな?」 心配そうな顔をしながら、呟いた。 「大丈夫よ、きっと。ああいうのは慣れているだろうし」 「…なら、いいけど。後でお礼を言ってね」 「分かったわ。さあ、なに食べる?」 メニュー表を渡す。 霖はまだ心配そうな顔をしていたが、それを受け取り、頼むものを探した。 何を頼もうか悩んでいる霖を眺めながら、ちゃんとお礼を言わないとねと思った。
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