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ここはどこだろう、と思った。
四角い箱の様な部屋だった。タイルも壁も天井も穢れのない真っ白な色で統一されていて、窓枠とドアだけがこげ茶色だから、どうにもくっきりと明暗が分かれていて落ち着かない。ドアと同じ色のテーブルと、そこに収まる二脚の椅子。簡易キッチンと、クローゼットと、ソファが一つずつ。どれも生活臭を感じさせない、まるで売り場にあるものをそのまま持ってきたような品々だった。
そんな、狭くはないが落ち着かない空間に、私は全裸で倒れていた。全裸である。
「いや、これはまずいだろう…」
見知らぬ家に、全裸の大人が倒れ込んでいた。あっという間に捕まるだろう。罪状はなんだ。不法侵入、猥褻物陳列罪…。出所したとしても生きていける気がしない罪の数々である。
全裸のまま動くのも嫌だったが、私は服を探すために動き回ることにした。と言っても、向かうは埃をかぶったクローゼットの前。人間の衣服というものは、大抵この中に丁寧に、人によっては乱雑にしまわれているものである。
家主には申し訳ないが、服を拝借することにした。ここの家主だって全裸で居座られるよりはマシだろう。
「…固いな…。よっこ、いしょ…!!」
意外と固く閉ざされていたので、仕方なく踏ん張って引っ張った。全裸が。他人の家で。カーテンが閉まっていて本当によかった、と改めて思った。
「ガチャン、ギイィ」
酷い音がして、それは勢いよく開かれた。同時に、中から人影が飛び出してきて私の上に飛びつく。
「ぎゃああ?!」
なんだこれは、なんだこれは!!恐ろしくてまともな受け身も取れず、強かに頭を強打した。
『おや、おやおやおや?これはこれは!大丈夫ですか、受け身は取れました?痛そうな音がしましたねぇ、受け身は取れたのですか?』
私の上に覆いかぶさる影――恐らく、少女は、ひたすらに受け身の有無を確認しながら私の上からどこうとはしなかった。そんなに受け身が大事か。
「受け身なんて取れなかったよ…。君が急に飛び出してくるから」
『あらら、それは失礼しました!申し訳なさで胸がいっぱいです。あ、だからと言ってすぐにワタシの胸に視線を向けないでくださいな、このスケベ?』
「見ないよ、馬鹿。それよりどいてくれないかな?重い」
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