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と、いうよりも。全裸の上に美少女。これほど危ない構図はないだろう。少女は失敬失敬、と外見に似合わない声を上げてのいた。
白い肌。真っ黒の目と髪。ついでに真っ黒な服。首と顔以外は肌が露出していない、なんとも変なかっこうだった。背景が真っ白なため、より際立って浮き彫りになっている。
「えーーと、…だれ?」
とりあえず隠すように体育座りをして、目の前に正座する少女に尋ねた。にっこり。不自然なまでにいい笑顔をして、彼女は答える。
『そうですね、そうですねぇ。名無しちゃんとでも呼んでいただきましょうか。さしずめワタシはアナタを解決に導くワトスン役といったところでしょうか』
モノクロオムの少女は聞かれてもいないことまでずらずらと喋った。話を聞かないタイプの子か。将来性を疑うぜ。
『そこでそこで、ワタシはアナタが知りたいのです。手始めにお名前を』
教えて、と薄い唇が形作る。
ああ、私は――。自己紹介をしようとして、やめた。否、口が止まった。
私は誰なのだろう。何もかも分からないことが、今分かったのだ。この少女――名無しに質問されて、たった今。
「はははっ…優秀な助手だ…」
唯一最大の謎をさっそく引き当てるなんて。
そもそも、私は自分の名前も知らない。短髪で、腹筋も割れていて、背も高く声も低い。だが…それ以外はどうだ。外見以外の情報は何もない。
私がどんな名を授かり、どんな人生を歩み、どんな形で育ってきたのか…。すべて、まるっきり、白紙だ。
『お褒めに預かり光栄ですわ。…さて、アナタ…そうですねぇ、仮に『名無し君』…いえ、『名無しさん』としましょう。名無しさんは記憶喪失なわけです。そう、かの有名な記憶喪失!アナタは今右も左も前も後ろも斜め後ろだって分からないわけです。ええ、ええ、そうですね。いつまでも生まれたままの姿というのも酷でしょうから、僭越ながらこのワタシのストールをどうぞ』
しゅるり、と薄い黒のストールを渡される。これをどうしろと。さんざん悩んだ挙句、腰に巻いた。すごい。心もとない。かつてこれほどまでに心もとない腰巻があっただろうか。
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