第1章 帰らない恋人

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あたしが2歳くらいの時、ニューヨーク市警で働くダディのパートナーの匠と知り合った。 妹の美衣(ミイ)がその頃に産まれて、体が弱かった美衣に両親はつきっきりだった。でも、あたしは寂しくなんかなかった。匠が、そばにいてくれたから。 寂しい時は、ちゃんと寂しいって言え。 泣きたい時は、子供らしくちゃんと泣け。 ムカついたら、何に怒ってるか、ちゃんと言え。 匠はあたしにそう教えた。 だから、匠にだけは、素直になれた。ワガママも言えた。美衣のことも、かわいいって思えるようになった。 あたしが10歳の時、両親が事件に巻き込まれて亡くなって、祖父母があたしたちを引き取るって言ってくれたのに、何故か日本に行くことになって、あたしは匠と離れることになった。 匠と離れたくなかった。 いつまでもずっと一緒だって思ってた。 何故、引き裂かれなければならないのか。 別れの夜、ハーレムの公園で匠の胸に泣いてすがった。 自分が無力の子供だから、何にも出来ない。そのことが歯がゆくて、切なかった。ここにいたい、と言っても、大人たちの勝手な都合で、行ったこともない日本に連れて行かれてしまう。 だけど、匠はそんなあたしの気持ちを一番に理解してくれた。 必ず、迎えに来てくれる、と。 それだけが、唯一の生きがいになったんだ。 そうして、あたしが17歳の時、匠は迎えに来てくれた。 匠が探偵事務所を開くことになって、あたしは迷わずそこで働くことを決めて、高校を卒業してすぐに匠の助手として働き始めたんだ。 あたしは彼氏ができるたび、匠に相談して、会ってもらって、判定してもらう。 ほんと、父親みたいだ。 でも、匠はいつもダメだし。
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