第壹章 脱藩武士と魔導書

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「吉田寅次郎が逃げたぞおおおおおおおお!」 「待てえええええ!」 「待てと言われて待つ僕にあらず!」 幕末の嘉永(かえい)四年(1851年)旧暦十二月十五日。 長州(山口)から江戸に遊学していた、 後に吉田松陰と名を改め長州を倒幕に導く、 二十二歳の若き山鹿流兵学師範の吉田寅次郎。 彼は知識人の鳥山新三郎や江幡(えばた)五郎から、 陸奥(青森)に現れるロシア帝国の黒船の話に興味を抱いた。 しかし藩主敬親が水害で、 長州萩に帰国したので東北に行く為の、 関所を通る過書手形の発行が遅れに遅れている。 これに焦った吉田寅次郎は、 亡命と知りつつ江戸を飛び出したのだ! 「僕は早く!東北に行きたいでござる! ( ゚∀゚)о彡黒船黒船!」 寅次郎は抑えきれぬ衝動のままに雪降る中、 赤穂浪士ゆかりの泉岳寺を越え、 険しい林道を駆け抜ける。 それは名前も合間って、 黒船と言う獲物を仕留めんと追い掛ける虎の様である。 関所の追っ手を巻いて、 一息ついた寅次郎は今夜の宿にしようと、 適当な枝を拾い手頃な洞窟で暖を取る。 焚き火に照らされる中で、 寅次郎が懐から出した書物は、 江戸遊学の際に西洋兵学の師匠である、 佐久間象山から貰った、 西洋の怪しげな魔導書のエイボンの書だ。
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