第壹章 脱藩武士と魔導書

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エイボンの書は既に沈んだ、 古代ハイパーボリア大陸の魔術師エイボンが、 地の邪神ツァトゥグァから授かった知識を元に書いた、 古代ハイパーボリア語の魔導書であり。 南蛮かぶれの象山が手に入れた英語訳写本で、 蔵書の中でも際立って異彩を放つ一冊。 「う~む、何とも奇怪なり! 僕は長崎の出島で、 西洋の書物も何冊か読んだが、 かように変わった代物は初めてなり! 西洋は政治経済軍事に邪法まで興味深い」 寅次郎は揺らめく焚き火の灯りで、 知的好奇心を刺激する、 夷狄(いてき)の風変わりな奇書を読み進める。 夷狄や南蛮は中華思想における、 東夷(とうい)西戎(せいばつ)北狄(ほくてき)と並ぶ周辺国への蔑称である。 東夷に含まれる筈の日本においても、 アイヌを蝦夷、 東南アジア経由で来た西洋を南蛮と呼んでいるので、 東夷の寅次郎は南蛮を学ぶ為に、 蝦夷に行く事にもなる。 日本どころか西洋でも稀な、 怪しげな世界観に引き込まれた。 日本の八百万の神々とは、 全く別系統の神話に感銘を受けつつ、 東北に行く本来の目的である黒船にも思いを馳せて、 この日は逃げた疲れも合間って疲れ、 そのまま眠ってしまった。 見る夢は当然新鮮で混沌とした、 寅次郎西洋の想像図だ。 「西洋も邪神も怪物過ぎるでござる~!」
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