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ゆるゆると身体を包み込むように時が流れる。掌から零れ落ちる砂の粒に、やがて呑み込まれて行く。もがき苦しむこともなく、砂の底に沈んで行く自分を見ている。
夢。
繰り返し見る夢に、続きはない。目覚めても沈んで行く感覚だけが残る。
そして、昨日と同じ朝を迎え、昨日と同じ日常がしごく当たり前に繰り返される。
元より、何もなかったように、傷跡すら残っていない左手首。
生かされた命の理由。19の夏に、既になかったかもしれないのに。
再び、何のために。誰のために今があるのか、ありふれた日常の中で、何度も立ち止まってしまう。
今では、異空間だと思える。『とまり木』や『antique銀の匙』での出来事も、このまま目をつぶり、口を閉じ、耳を塞いで、この左手首のように、何もなかったことにすれば、退屈で平穏で幸せな日々を送ることが出来る筈だ。そう、同じことを反復し、反芻し、そして、胸の奥底の深い深い場所に閉じ込めておいたものが、身体の芯を揺さぶって、僕を悶々とさせた。
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