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香坂と会う前に、日向さんの家を訪ねた。
何度訪れても、日向書房がコンビニに変わっていることに違和感がある。店の奥に通して貰い、離れの前の庭、大量の書籍が眠っていた土蔵、今満開の白藤の棚。
そして、囲われた空地。初夏の日差しが降り注ぐ、切り取られた風景。
僕は、ゆっくりと土蔵に近寄った。開け放たれた重い扉。香坂が精力的に整理してくれたお蔭で、中は既に空になり、残された書架が骨のように立っていた。いくつもの明かり取りの小窓からも、埃と黴、本の匂いは流れ出て、ただ静かに眠っているようだった。中を一周して、外へ出ると、白壁に描かれた絵を暫く見つめてから、日向さんの離れの縁側に腰を下ろした。
此処には、また僅かに本が積みあげられ、二架の本棚もそのままになっていた。今にめも日向さんが、やぁ夏生君と言って顔を出すような気さえするが、主の居なくなった家は、急に傷み始める。或いは、取り壊すことが決まっている無頓着さだろうか。ガラス戸はすっかり建てつけが悪くなっていた。
雲が流れを急いで、日差しは、差したり、陰ったりを繰り返している。
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