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雨が降ったのだろう。土が湿っているせいか、草は楽に抜けた。草取りという奉仕作業は別に好きではないが、成果が目に見えてわかる。そして、何より無心になれる。
30分もしないうちに、石碑の周りはすっかり綺麗になって、黒い土が見えた。雨で汚れた石をハンカチで拭く。草取りに夢中になっていた僕を、再び香坂の呼ぶ声がした。
「なんだ、やけに早いな」
「おお、腫れて痛んでるから無理だって。
クスリ貰って、クソぉ、月曜日だ」
「そういえば、腫れてる」
「何がそういえば、だよ。此処でキャッチボールとかするとメッチャ怒られたな。地縛霊が居るんだぞ。草取りなんかして、嫌味だな」
「やっぱりそう思うか」
「まぁな。あ、そうだ、日向さんの本棚と文机、あれも要らないって。対になってるし、物良さそうだし、駅前の骨董屋とかで買ってくれないかな?ま、あとでゆっくりな。戻るワ。取り憑かれる前に帰れよ」
そう言うと、歯が痛むのか、今度は走らずに離れの裏の方に歩いて行った。
相変わらず、忙しい奴だ。そして、優しい。
地縛霊か…。取り憑かれる、というより僕の方が離れられないと言った方が正しい。
暫く、草取りを続け、片付けをしてから、離れのガラス窓を閉め、裏庭をあとにした。将之さんには会わず終いでコンビニを出た。少し先まで歩いたが、泰山木の花も
無論、その先に続く小径もなかった。
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