脱出者 スパイ0001

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 兵士が階段を降りて来たようだ。  俺は階段を降りて、すでに通路に出ている。出口が通路の先に見える。  兵士が俺のいる通路にわらわらと2人出てきた。少ないな。  仕方がない。こうなってはワルサーを使うしかない。恨むなよ。  俺はワルサーを振り回して、弾丸を撒き散らした。  ちょっと臭いが立ち込めてくる。  兵士どもは驚いている。口々に叫んでいた。 「これは?!」 「あー、やられた!」  くらえくらえ!どうだ!  だが、ワルサーの弾を食らっても兵士は怯まない。俺を左右から捕まえやがった。  これは、サイボーグとやらか?  兵士は、がはは、と笑う。 「はいはい、及川さん、捕まえました。戻りましょう。」 「まったく、吸い飲みにオシッコ入れて持ってるなんて。 こんなに撒き散らして…」  ぬかったわ。俺としたことが。  俺は、及川 権造などではない。スパイ0001号だ!  及川権造?  え?  なんだか聞いたことがあるな。あれ?  兵士は俺を引きずるようにして、エレベーターに乗せた。 「まったく、このおじいちゃんは、何度も脱走しちゃって。」 「薬飲ませないとな。」  やめろ、俺は、あれは嫌いだ。苦いのだ。 「ここはどこですか? 及川権造さん?」  ここは、ここは、スパイの収容所だ… 「違います。 老人ホーム! 今は、ここがあなたの家ですよ。」                       そんなバカな…俺は、  俺は及川権造、82歳だ!  あれ?そうだっけ? 「はい、お薬飲んで。」  ああ、苦い、苦いよ…介護師のお姉ちゃん… END
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