脱出者 スパイ0001

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 足が重い。  俺は、やつらが俺に食わせている飯に、何か白い粉を仕込んでいるのを見逃してない。  マヌケどもめ。俺の目は節穴ではない。足が重いのは、その薬のせいなのも知っている。  いかんな。フラフラする。  通路の手すりに捕まりながら、俺は進む。ここで物音を立てれば、たちどころにやつらはやってくる。  薄暗い通路には、囚われた人たちがいる部屋が何部屋かある。俺にベタ惚れのサチの部屋の前を通る。  ちょうど起きたのか、サチがドアの隙間からのぞいている。  俺は隙間からサチに、ささやいた。 「俺は行く。必ずここに戻る。 心配するな。」  サチは垂れ気味の愛らしい目を悲しげにした。 「どこにいくっての? こんな時間に、出られないよ。」 「俺は不可能を可能にする男だ。 心配は要らない。」  俺は、サチを置いて進む。  しばらく進むと、広いホールに出た。ここは囚われの人々が昼間に飯を食う場所で、テーブルが並んでいる。  兵士はいない。この奥にある兵士の詰所にいるようだ。訓練されているわりには、抜けてやがる。そんな部屋にいて、監視が務まるものかよ。  もっとも、飼い慣らされたように大人しい他の収容者は、脱出などしない。あきらめており、ここで死ぬことを望んでいるような連中だ。  やはり、俺が脱出して、彼らに希望を与えねばなるまい。運命は自分で切り開かねばならないのだ、と。  俺はふらつく足を騙しながら、横手にあるドアにとりついた。  この向こうには、階段やエレベーターがある。そんなことは調査済みだ。俺に隠し事は難しいんだぜ。  しかし、ドアは鍵が掛かっていやがる。開かない。  ここで無理矢理こじ開けたり、ワルサーで鍵を撃ち壊したりすれば、捕まってしまう。  俺は運がいい。  詰所の兵士が動き出した。  俺はテーブルの陰に隠れた。  詰所から出てきた兵士は、ホールを進んで、他の囚われの人々の部屋を順番にチェックし始めた。  まずい。俺の部屋に兵士が回ってくるまでに脱出しないと、部屋に誰もいないことがバレてしまう。  落ち着け。俺の部屋に回ってくるまでに、5人の部屋を見て回るはずだ。まだ時間はある。
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