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足が重い。
俺は、やつらが俺に食わせている飯に、何か白い粉を仕込んでいるのを見逃してない。
マヌケどもめ。俺の目は節穴ではない。足が重いのは、その薬のせいなのも知っている。
いかんな。フラフラする。
通路の手すりに捕まりながら、俺は進む。ここで物音を立てれば、たちどころにやつらはやってくる。
薄暗い通路には、囚われた人たちがいる部屋が何部屋かある。俺にベタ惚れのサチの部屋の前を通る。
ちょうど起きたのか、サチがドアの隙間からのぞいている。
俺は隙間からサチに、ささやいた。
「俺は行く。必ずここに戻る。
心配するな。」
サチは垂れ気味の愛らしい目を悲しげにした。
「どこにいくっての?
こんな時間に、出られないよ。」
「俺は不可能を可能にする男だ。
心配は要らない。」
俺は、サチを置いて進む。
しばらく進むと、広いホールに出た。ここは囚われの人々が昼間に飯を食う場所で、テーブルが並んでいる。
兵士はいない。この奥にある兵士の詰所にいるようだ。訓練されているわりには、抜けてやがる。そんな部屋にいて、監視が務まるものかよ。
もっとも、飼い慣らされたように大人しい他の収容者は、脱出などしない。あきらめており、ここで死ぬことを望んでいるような連中だ。
やはり、俺が脱出して、彼らに希望を与えねばなるまい。運命は自分で切り開かねばならないのだ、と。
俺はふらつく足を騙しながら、横手にあるドアにとりついた。
この向こうには、階段やエレベーターがある。そんなことは調査済みだ。俺に隠し事は難しいんだぜ。
しかし、ドアは鍵が掛かっていやがる。開かない。
ここで無理矢理こじ開けたり、ワルサーで鍵を撃ち壊したりすれば、捕まってしまう。
俺は運がいい。
詰所の兵士が動き出した。
俺はテーブルの陰に隠れた。
詰所から出てきた兵士は、ホールを進んで、他の囚われの人々の部屋を順番にチェックし始めた。
まずい。俺の部屋に兵士が回ってくるまでに脱出しないと、部屋に誰もいないことがバレてしまう。
落ち着け。俺の部屋に回ってくるまでに、5人の部屋を見て回るはずだ。まだ時間はある。
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